蜀に馬邈《ばばく》という武将がいます。

魏《ぎ》の鄧艾《とうがい》が蜀に攻めてきたとき、まっさきに降伏してしまった人物です。

「先陣が江由に到着すると、蜀の守備隊長の馬邈が降伏した」との記述だけですまされており、なぜ降伏したかなど理由はまったくわかりません。

三国演義でも江由城を守っていましたが、姜維《きょうい》が剣閣《けんかく》で魏の侵入を防いでいるので「まあ大丈夫だろう」と考え、妻の李氏と酒を飲み交わしていました。

李氏が、

「こんなことをしててよろしいのでしょうか」

と聞けば、

「どうせ陛下は黄皓《こうこう》のいいなり。国はいずれ災難にあう。敵が来たらまっさきに降伏すればいい」

といった様子。そもそも城を守る気はありません。

李氏は夫の情けなさに唾を吐きかけ、

「国の禄を食んでそのていたらく。夫婦でいることが恥ずかしい」

としかりつけます。奥さんのほうが男前です。

そこへ鄧艾軍二千が到着したとの報告。

馬邈はすぐさま降伏し、鄧艾の前で泣いて土下座して助命を乞います。

鄧艾はこれを許し、蜀の案内役としました。

そこへ李氏が首をくくって死んだとの報告が入ります。

鄧艾は理由を知って李氏の忠義に感じ入り、手厚く葬りました。

李氏のおこないは魏でも感嘆されるといった様子で、馬邈は完全に面子丸つぶれです。

じっさいにこうだったのかどうかはわかりませんが、まっさきに降伏してしまったことからこんなあつかいになってしまったのかもしれませんね。